ナポリ(イタリア編4)


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 ローマで、Y君と別れ、N君と2人で、ナポリへ南下していた。

 次に観に行く予定のペルージャのゲームの人気が無いので、当日や前日でも楽にチケットが取れるため、少し時間に余裕の出来たのだ。


 先週、フィレンツェにいた頃には、イタリア中を大寒波が襲い、何と、ナポリにも雪が降るという珍事も起こっていたのだが、数日経ち、再び本来の温かいナポリに戻りつつあった。

 その温かさとともに、ナポリ中央駅へ降りると、北イタリアと光景も一変した。 薄汚れた狭い路地の頭上に、所狭しと干された洗濯物。ここはアジアか。思わず、錯覚に陥ってしまいそうになる。(▼注30)


 そんなある日、ほとんどのスポーツ新聞の一面がマラドーナになっていた。なぜ今頃、一面を飾っているのだろうか?まさか・・・・・死んだ? 

 イタリア語の分からない僕は、そのすっかり太ってしまったマラドーナの写真を指差しながら、なんて書いてあるのか、尋ねてみた。

 すると、やはり・・・・・死んでいた・・・・・訳はない。ただ単に、今ナポリに来ている、それだけのことだった。それだけのことでも、大ニュースになるほど、ここナポリにおいて、マラドーナの存在は、正に神様である。

 あのスクデッド(優勝)から、もう8年も経っているというのに、街中の至るところで、マラドーナのユニホームやグッズ、ブロマイドなどが売られている。

 僕とN君は、そのマラドーナが一面のスポーツ新聞を持って、水中翼船に乗り、カプリ島へ行ってみた。もちろん目的は、青の洞窟である。

 しかし、この青の洞窟、波が高い時は、入口の穴が小さいために隠れてしまい、入ることが出来ず、10日に1度しか見ることが出来ない。入れるかどうかは、カプリ島へ行ってみなければ分からず、ナポリの神様マラドーナに祈りながら、賭けで行ってみた。

 カプリ島へ着き、船着場のオヤジに、さっそく聞いてみると、何でも、昨日までは1週間ほど、ずっと見ることが出来ない日が続いていたが、今日はギリギリ見られると言うのだ。幸運である。さすが、神様マラドーナ

 マラドーナに感謝しながら、メルジェリーナ駅近くの丘の上にある、見晴らしの良いユースホステルへ帰って行った。


 ユースホステルに戻り、集まっている日本人のところへ行ってみると、日本人旅行者たちが話し掛けて来た。

金城武が死んだって、噂が流れているんですけど、本当ですかね?」

 俳優の金城武が、芸能レポーターにクルマで追いかけられて、ダイアナ妃のように、事故で死んだと言うのだ。

 「いや、オレは、ちょっと、最近、日本と連絡取ってないから分からないけど・・・・・ホント?」

 長期旅行者は日本の情報が分からないため、このような、怪しい噂が流れることがあるのだ。この金城武死亡説は、この時期、イタリア中のユースホステルに広まっていたらしい。元になる話が、何かあったのだろうが、それが伝言ゲームのように、どんどん話が変わり、「金城武が死んだ。」ということになったのだろうか。


 雑誌に書いてあったのだが、かつてインドの長期旅行者の間では、「いかりや長介死亡説」なんてものが流れていたらしい。このような噂は、みんな、案外、僕がスポーツ新聞を見て、マラドーナが死んだと思ったようなことが元ネタなのかもしれない。

 金城武死亡説は、結局、誰かが日本に国際電話をして確認したため、ウソだということが分かったのだが、確認したら、つまらない。みんな、多分ウソだろうと思いながらも、面白がって、広めているのだ。


 僕たちも、誰か、死亡説を流してみよう、そう冗談を言い合いながら、失礼だが、信憑性のありそうな人を挙げながら、ある人で、みんなの意見が一致した。

 「ジャイアント馬場!」 

 話は盛り上がり、深夜まで続いた。その数ヶ月後には、本当に馬場が死んでしまうことなど、もちろん知らずに。



▼注30「ナポリ」 参考文献?

 一般的に、明るく、陽気で、女好き、そういうイメージのナポリ人であるが、その反面、この町の歴史は、紀元前5世紀に古代ギリシャの植民地として、2500年前に建設されて以来、ローマ、ビザンティン、ノルマンと、次々とやって来る支配者に翻弄された歳月でもあったのだ。

 さらに1860年、北イタリアのサルデーニャ王国が、イタリア統一を果たすと、ナポリは一地方都市に転落、近代化の波にも乗り遅れ、衰退の一途を辿った。

 そして、その間、ナポリ人が味わって来たのは、北イタリアとは対照的な飢えと貧しさであった。「富の北イタリア」と「貧の南イタリア」。よく言われる表現だが、1995年に世界遺産にも登録されたナポリの街を歩いていると、その歴史と文化とともに、その貧しさを実感する。

 サッカーにおいても、富める北イタリアの優位は顕著で、ここ数年ずっと、北のチームがスクデッドセリエA優勝)を独占している。かつて、あのマラドーナが在籍し、2度のスクデッド(優勝)にも輝いた名門ナポリも、セリエBに低迷しており、不満な毎日を送っているようだ。