ペルージャ(イタリア編5)


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 再び北上して、ローマを経由し、ペルージャへやって来た。

ペルージャの中心地である11月4日広場は、小高い丘の上にあり、ユースホステルも、そのすぐ近くにある。

 ペルージャ駅に降り立ち、キョロキョロしていると、話し掛けて来た日本人旅行者が、そう教えてくれた。それが、この後、しばらく行動をともにするNB君であった。


 日本を出て、知らない間に、中田英寿は、ペルージャで大活躍を続け、すでにセリエAでも確固たる地位を築いていた。その中田を目当てに、日本人が押し寄せ、今まで閑散としていたペルージャユースホステルが、試合の前になると、日本人で満員になるらしい。

 この周辺、ウンブリア地方は、イタリア随一の古さを誇る古い街並みや史跡も多く、以前から旅行者には人気の町ではあった。しかし、その多くの旅行者は、12世紀の聖者フランチェスコの町として有名な隣町アッシジに宿を取ることが多かった。


 このペルージャ、僕もご多分に漏れず、中田が目当てで、やって来た訳だが、街を歩いていると、なるほど言われた通り、古き良きイタリアの地方都市といった落ち着いた雰囲気が伝わってくる。

 すっかり、中田が目当てで来たことを忘れて、歩き続けたが、しばらくすると、「お前は、中田が目当てで来たんだろ!」と言わんばかりに、ペルージャの地元の人々が話し掛けてくる。

 「ナカ~タ!!」

 しかし、彼らイタリア人は、アジア人の顔の区別が出来ないため、韓国人旅行者にまで、「ナカ~タ!!」と言っているのだ。きっと、韓国人はムッとしたことだろう。

 ユースホステルには、次々と日本人が集まり始めた。通常の部屋に泊まりきれない旅行者が地下の倉庫のようなところにまで泊まり、総勢20名ほどの中田応援団が結成された。


 ゲームの前日、ペルージャのホーム・スタジアム、レナトクーリの横にあるグラウンドへ練習を見に行くことにした。

 しかし、そこには、イタリアや日本のテレビ局、雑誌などプレス関係者から、地元のファン、日本人観光客が、まばらにいる程度。

 セリエAとはいえ、地方の弱小チームであるためか、規制は厳しくない。練習中は、横から柵越しに観るだけだが、練習が終わると、プレスの人たちに混じって、選手の間近まで行くことが許される。

 ミーハーな僕たちが、すかさずグラウンド内に入ると、最後までフリーキックの練習をしていた中田がいたが、日本人旅行者たちを見ると、顔を手で隠しながら、足早にクラブハウスの方へ戻って行ってしまった。


 噂には聞いていたが、どうやら本当に日本人ファンを嫌がっているようだ。そのため、僕は帰ろうとしたが、その練習場で知り合った日本人の女の子たちは、さらにクラブハウスの前で待ち伏せをして、プレゼントを渡すと言う。

 あまり気が進まなかったが、プレゼントを渡そうとする女の子たちに、中田がどんな反応をするのかが見たいという野次馬的な気持ちもあり、クラブハウス前の駐車場まで、着いて行くことにした。


 それほど待たないうちに、ジャージ姿の中田が出て来て、クルマに乗り込もうとした。

 すると、すかさず女の子たちがプレゼントを渡そうとする。しかし、受け取らない。中田は女の子たちを無視し、クルマの中でウオークマンを聴いている。困ってしまった女の子たちは、何と勝手に、クルマの扉を開け、助手席にプレゼントを置いたのだ。

 それは、まずいだろう。そう思った、その時、中田が何故かイタリア語で言った。

 「そこ、人が乗るんだから、邪魔なんだよ!」(イタリア語が分かる日本人に、通訳してもらった。)

 そのまま、中田はクルマで去って行った。もちろん、プレゼントは受け取らずに。

 気まずい空気が流れる中、女の子たちは、呆然とその場に立ち尽くし、そして、こう言った。

 「すっげえ、ムカつく!!」 ついさっきまでは、キャーキャー言っていたのに。


 このままでは、中田は嫌な奴に思えなくもないが、その後がやはり凄いのだ。ゲームでは、やってくれました。

 相手は、同じくセリエA残留を目指す下位チームのピアツェンツァとは言え、中田はオーバーヘッドを含む2ゴールと大活躍。イタリアの有名なスポーツ紙ガゼッタ・デロ・スポルトでも、あの衝撃の対ユベントスのデビュー戦に次ぐ8点が付けられたのだ。


 僕たちユースホステル応援団はスタンドで、「FORZA PERUGIA! HIDE NAKATA 7」という自作の旗を振り、大応援した。女の子たちも、「昨日はムカついたけど、これだから、中田のファンは止められない。」と大興奮。

 何度も何度も、自作の旗を振り続けたが、あまり目立って、テレビに映ってしまう訳には行かないのだ。

 なぜなら、実はその旗は、ユースホステルのシーツを何枚も盗んで、作ったものだから。


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