マルセイユ~アルル(フランス編3)
ニースから行動をともにいていた、ノブ君、メイ君と、南仏プロヴァンスのアルルへ行くために、マルセイユ駅のホームに立っていると、突然、フランス人の爺さんが、日本語で話し掛けて来た。
爺さんは、日本へ行ったことはないが、独学で日本語を勉強して、日常会話が出来るまでに上達したようだ。じいさんの日本語は、かなり上手いが、実践で覚えたのではないため、いかにも、お勉強して覚えたといった感じ。
感情の起伏の全くない、堅苦しい教科書通りの日本語は、まるでセリフを棒読みしているかのようで、爺さんがカンニング・ペーパーをどこかに隠しているのではないかと、思ってしまった程である。
爺さんは、せっかく日本語を覚えたのに、中々それを披露する機会がなく、マルセイユの駅で、日本人旅行者を見付けては、このように話し掛けているようだ。
アルルでは、ツインの部屋を3人でシェアし、昼間は別行動、夜に部屋に集まり、それぞれスーパーマーケットで買ったパン、ハム、チーズなどの食料を持ち寄り、一緒にワインを飲む。そんな日々が続くことになる。
毎日、夜になると、ワインを飲みながら、3人で延々と下らない話しをするのが待ち遠しかった。日本を出て、かなり経ち、だらけてきたのか、あちこちを見て回ったり、次の町へ移動するのも面倒臭くなって来たのだ。
一応、ゴッホの絵で有名な「アルルのはね橋」などにも行ってみたが、ほとんど昼間は、公園や川岸などでボーっとして、暇を潰す。
晴れている日は、それでも良いのだが、雨の日はどうしようもない。宿に居られればよいのだが、大抵のユースホステルでは、ロックアウトという時間があり、連泊中であっても、午前10時から午後5時ぐらいまで、外に出なければならないのだ。
短期の旅行であれば、雨であっても、無理して観光するのだろうが、時間にいくらでも余裕のある僕が、雨の日に無理する必要などない。そんな日は、どこにも行く場所がなく、マクドナルドで本を読みながら、コーヒー1杯で何時間も居座っていた。
そんなに暇ならば、日本に帰ればいいではないか、そう言う人もいるかもしれないが、それは違う。このバカバカしく、贅沢なまでに退屈な状態、それこそがやりたかったことなのだ。
ある意味では、この旅で最も楽しかった時だったのかもしれない。僕たちは、アルルからニーム、カルカッソンヌ、トゥールーズへと、数日づつ小刻みに滞在しながら、列車で進んで行った。
誰から言い出す訳でもなく、次の目的地が決まっていく。それは、あたかも3人がバラバラになるのを避けているかのように、相変わらず同じような日々が続くのであった。