ロカ岬(ポルトガル編2)


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 何もなかったかのように、静まり返った大西洋。その静寂が旅の終わりを予感させるかのようであった。


 リスボン・カイス・ド・ソドレ駅から列車に乗ってやって来た大西洋沿いの小さな町カスカイスで、ロカ岬へ向かうローカル・バスを待っていた。バス停には、老人たちが暇そうにしている。

 誰も、僕が上海から半年以上もかけて、ここまでやって来たことなど、知るはずもない。

 ただ波の音、鳥の声だけが聞こえてくる、穏やかな冬の午後。この光景、ユーラシアを旅して来て、西の果てへと辿り着いた多くの旅人たちが、何十年も前から、見て来た光景なのかもしれない。しばらくここに、じっと佇んでいた。


 ようやくやって来たバスに、吸い込まれるように乗り込んだ。ガラガラのバスは、老人たちを乗せて、ゆっくりと走り出した。

 名前も知らない小さな街、村を通り過ぎ、バスは進む。ところが進むに連れ、もう間もなくゴールするという実感が湧いて来なくなってしまった。20分ぐらい走っただろうか。

「もう旅は終わってしまうのか。」

 そう考えると同時に、突然、バスを降りたくなってしまったのだ。

「おい、こんなところで下りるのか。カボ・ダ・ロカ(ロカ岬)はまだ大分、先だぞ。」運転手が言う。

 

 ロカ岬へと続く、長い一本道。

 バスを下り、ゆっくり、ゆっくりと歩き出した。壁に苔が生えている古い屋敷の前で、犬が見ている。


 日本を出てから、日記に書ききれないほど、色々なことがあり、色々な人たちと出会った。頭の中には、様々な思いが去来する。

 漢族にキレまくった中国。快適なフンザから、灼熱の南部へと、怒涛の日々が続いたパキスタン。アフガン問題で揺れていたイラン。難民に占拠されていたアルメニアグルジア民主化して間もない東欧の国々。サッカー三昧だったイタリア。ノブ君・メイ君と珍道中を繰り広げたフランス。相変わらず酒ばかり飲んでいたスペイン。そして、ポルトガル

 ひたすら、真っ直ぐに歩いて来た一本道。

 ふと後ろを振り返った、その時、ゴールなんて、どうでもいい気がした。


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