ニーム~カルカッソンヌ~トゥールーズ(フランス編4)
ニームのユースホステルは、山の上にひっそりと建っていたが、実際に中へ入ってみると、思いの他、若いフランス人でごった返していた。こんな田舎町に滞在して、いったい何をしているのだろうか。
いくつかのフランスのユースホステルに泊まって来たが、意外に大人が長期滞在しているのに驚く。最初は、中年になっても、旅が出来て、いいなあと思ったのだが、そうではないのだ。
フランスでは失業率が10%台と以外に高く、職を探すため、滞在している人たちなのだ。ましてや、外国人は、その比ではなく、マルセイユのユースホステルのドミトリーで一緒だったベルギー人も、「仕事が見つからないよ。」とぼやいていた。
夜になり、休憩室のようなところで、いつものように3人でワインを飲みながら、喋っていると、突然、先程の若いフランス人たちが大勢やって来た。ラジカセで大きな音で音楽を鳴らしながら、ワインを飲み、騒ぎ始めた彼らに、話し掛けてみた。
彼らは、兵役を終えたため、このユースホステルに滞在して、パーティーをしていると言う。今まで軍隊でストイックに過ごしていた反動なのか、深夜まで飲んで、歌って、踊って、大騒ぎを続けた。
しかし、この騒ぎの中、なぜか、わき目も振らずに、クロスワード・パズルをやっているオヤジがいた。先ほどの失業中のベルギー人である。大音響でラジカセが鳴り響き、真横で若いフランス人が踊っているにも関わらず、頑なに、ひとりでパズルを続けるベルギー人。
このベルギー人の心中は、きっとこうだったに違いない。
「お前ら、うるせえんだよ!オレがクロスワードやってるのによ。仕事も見つからねえし、全くロクなことがないぜ!」
フランス最後の滞在地は、国境近くの町トゥールーズ。ピレネー山脈を越えれば、もうスペインである。
当初ここへ来る前に滞在していたカルカッソンヌで、この3人組は解散する予定だったのだが、名残惜しくなり、ずるずるとトゥールーズまで来てしまったのだ。
ここから、ノブ君は、パリへ向かって北上し、僕とメイ君は、ともにピレネーを越えて、スペイン・バルセロナへ向かう。
ノブ君と別れる前に、前々から、やろうと思っていたことを、ここトゥールーズで行うことを決めた。それは、「金髪にすること」。
パキスタンで丸坊主にして、クロアチアで「ニセ・ボバン」にされた僕の髪も、ようやく落ち着いて来たため、思い切って、染めてみようと思ったのだ。
さっそく、繁華街にある、いくつかの美容院を訪ねてみた。するといきなり、看板に「COLORATION 150F(≒2500円)」という表示がある。思ったよりも、安い。よし今日中に金髪にしよう。
今日出て来る時に、メイ君、ノブ君に、「今日、金髪にしてくるぞ!」と宣言して、出て来ているのだ。
「夜になったら、金髪になって、あの部屋の外にある、籐の椅子に、エマニエル夫人のように、座っているから、楽しみにしててくれ。」と。
自分のブロンド・ヘアを想像して、少し恥ずかしくなりながら、結局一番安かった、宿から一番近い美容院に入って行った。
「COLORATION!」
「どんな色に?」 色の見本を出して来た。
一番、金色の見本を指差すと、店員は、「ちょっと待ってくれ」と奥へ入ったまま、中々出て来ない。どうやら、奥で他の美容師と相談しているようだ。ところが、しばらく経って、戻って来た店員の口からは、思わぬ言葉が発せられた。
「無理です。」
「えっ?なぜ?」
「あなたのような黒い髪は、扱ったことがない。金色にするのは、無理です。」
かなり引き下がったが、店員は嫌そうな顔をして、断り続けた。
仕方なく、他の美容院を何軒も回り、聞いてみた。しかし返って来る言葉は・・・・・
「まず皮膚テストをしてからでなければ、出来ない。あなたのような黒い髪には、刺激が強過ぎる。」
「やってもよいが、700Fかかる。外に書いてある価格は、フランス人用だ。(もともと金髪だから、安いのか?)」
「予約がいっぱいで無理です。」
アジアの頃よりは、マシになったとは言え、やはり汚らしいバックパッカー。もしかすると嫌がられたのかもしれない。考え過ぎかもしれないが。
夜になり、メイ君、ノブ君が戻って来た。しかし、部屋の外にある籐の椅子には、エマニエル夫人の姿はなかったのだった。