ヴェネツィア(イタリア編1)
結局、二日酔いのため、予定通りに出発出来なかったので、1日遅れでブレッド湖を後にした。バスで、首都リュブリャーナまで一旦戻り、そこで列車に乗り換え、約5時間で、ついにイタリア・ヴェネツィア。
日に日に快適になる列車に、すっかりくつろぎながら、車窓を眺め続けていた。思えば、アジアを旅していた時、移動と言えば、苦痛の連続であった。それがいつの間に、快適なことへと変わったのだろうか。
相変わらず、どんよりとした薄暗い、冬のヨーロッパの空であるが、西ヨーロッパへ近づきつつある期待からか、その空が明るくなって来たような気がした。列車は、アドリア海に沿うように、走り始め、車窓から、海が見え始めた頃、車掌が車内を点検し始めた。
「パスポートを見せて下さい。」
「えっ、もうイタリア?」
「そうですよ。もうすぐイタリアです。」
上海を出発して、約4ヶ月、ようやくEU圏への突入である。
外は、すっかり日が暮れ、真っ暗になった頃、列車は、両側が海という絶景の中を走り、間もなくヴェネツィア・サンタルチア駅へ到着した。
すっかり腹が減っていたため、とりあえず駅のセルフ・サービスの食堂で、パスタ、パン、サラダ、そして調子に乗って、ワインまで食器に乗せ、レジへと向かった。ちょっと贅沢し過ぎかな、そう思ったが、ちょっとどころではなかった。
「12000リラ(≒1000円)!」
イスタンブールに着いた時や、クロアチア、スロベニアあたりでも、かなり物価の高さを感じたが、その比ではない。アジア、東欧と物価の安いところばかりを旅して来た僕は、いつしか節約する気持ちが薄れていたようだ。
アジアでは、敢えて節約しようとしなくても、その物価の安さから、自然と節約になってしまう。貧乏旅行することは目的でもないが、いつまで旅を続けるか分からないため、残金がなくなってしまうことを怖れているのだ。
ここで旅が終わってしまうのなら、少しぐらい無駄使いしても構わないが、ユーラシア大陸の最西端ポルトガル・ロカ岬へ辿り着いた後も、旅は続くかもしれない。
物価とともに、驚いたのは、日本人観光客の多さであった。
翌日、ヴァポレットと呼ばれる水上バス(イタリアではチェックが甘いため、地下鉄、バス、水上バスと、タダ乗りのやり放題。電車もかなりタダ乗りしました。すみません。もうしません・・・)に乗って、かの有名なサンマルコ広場へ行った時は、日本人カップル(新婚旅行?)だらけ。
居心地が悪いので、早々にサンマルコ広場を去り、狭い路地を通り抜け、歩いてサンタルチア駅の方へ向かって行った。しかし、数百年後には海に沈むと言われている、この入り組んだ細い路地や、小さな運河を、右往左往しているうちに、誰もがそうなるように、僕もすっかり道に迷ってしまった。もちろん地図など持ってはいない。
いつの間にか、外は真っ暗になっていたが、散歩気分で適当に歩き回りながら、ついでに夕食のパン、ソーセージなどを買ったりしていた。
そのうち着くだろう。そう思っていたのだが、甘かった。近付いたつもりが、グルっと一周、回っていただけで、同じ場所へ戻って来たりで、もうすっかり訳がわからない。
結局、ようやく見覚えのある場所、ローマ広場に辿り着くことが出来るには、それからさらに、数時間歩き回らなければならなかった。
宿に戻り、足が棒になってしまった僕は、今後の予算について、考えてみた。
この物価の高さで、今までのペースで金を使っていては、やっていけない。宿もユースホステル、交通費もユーレイルパス(ヨーロッパの鉄道乗り放題のフリーパス。期限の表記がいい加減で、ボールペンなどで書かれており、例えば、「1」を「9」に書き換えたり、平気で出来る。)を購入した方がいいかもしれない。
そんなさみしい計算をしながら、夕食を取ろうと、先程買ったソーセージを開けてみた。臭い。異常に臭い。ヨーロッパはチーズだけじゃなく、ソーセージも臭いのか、そう思いながら、口に入れてみる。何故かヌルっとした感触。まずい。信じられないぐらいに、まず過ぎる。こ、これは、腐っているではないか。
文句を言いに行って、取り替えよう。そう思ったのだが、このソーセージ、道に迷っていた時に買ったため、どこの店だか、全く分からないのであった。