マラガ~セビリア~マドリッド(スペイン編5)


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 40歳過ぎて、無職のバックパッカー。それは、ある意味では、格好いいのかもしれないが、このオヤジはそうではない。格好悪過ぎる。いや、面白過ぎる。そんなオヤジの話である。


 グラナダから、温かい地中海に面したピカソの生地マラガ、フラメンコの本場セビリアと、アンダルシア地方を数日づつ滞在した後、再び北上して、マドリッドへやって来た。

 マドリッドユースホステルに、もしかしたらバルセロナで別れたメイ君がいるかもしれない。バルセロナの後、僕はバレンシアからアンダルシアへ、一方メイ君は船でマジョルカ島へ渡り、バレンシアへ。そして、ここマドリッドで出来れば再会しよう。そういうことになっていた。


 ユースホステルに辿り着いて、さっそくメイ君の姿を探してみた。その時、ロビーにいた日本人に、「他に日本人はいませんか?」と尋ねたところ、こう返事が返って来た。

「あと2人、日本人がいますよ。1人は大学生。もうひとりは変なオヤジがいるんですよ。」

 1人はメイ君に違いない。しかし、もうひとりの変なオヤジとは、一体どんな男なのだろうか。


 ロビーにいたその日本人のS君と、近くのバールで軽く飲んで、ユースホステルに戻って来ると、メイ君がいた。わずか2週間振りぐらいなのだが、随分と久し振りに再会したような気がした僕たちは、お互いひとりで行動していた時にあった出来事を、事細かに報告し合っていた。

 メイ君とは、無事に再会することが出来たが、翌日、僕たちは、この宿を出なければならなくなってしまった。このユースホステル、人気があり過ぎるために、3泊以上出来ない決まりとなっていたのだ。メイ君は既に3泊しており、僕もなぜか1泊しかしていないにも関わらず、抽選をしなければならなくなり、抽選に洩れてしまった。


 変なオヤジに会う事が出来ずに、ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちで朝食を食べていると、ついにそのオヤジが現れた。小柄で腹が出ていて、髪がやや薄く、ドカジャンを羽織り、年の頃は40歳台半ば、どうみても冴えない中年のオヤジ。

「下品な毛沢東!」

 S君が付けた、そのあだ名の正にその通りで、思わず吹き出しそうになってしまった。しかし、このオヤジ、見かけに反して、いきなり強気な態度を見せた。

「オレは世界一周旅行中だからね~ 何でも聞いてくれよ。」

オヤジが自慢?を始めると、横からメイ君が言った。

 「何言ってるんですか。オジさんは、世界一周って言ったって、飛行機で飛んで来ただけじゃないですか。」

 そう言われて、オヤジは急に黙ってしまった。


 シュンとしてしまったオヤジは、急に弱気になってしまい、ボロを出し始めた。ここからのオヤジとメイ君のやり取りが笑える。

「どうやったら、お金、節約出来るのかな?」とオヤジ。

「おじさん、タクシーばっかり乗ってるから、ダメなんですよ。出来るだけ歩かなきゃ。食事も自炊ですよ。」

「ノー・プログラムって、どういう意味なの?」

「ノー・プロブレムでしょ。昨日は、英語ペラペラって言ってたじゃないですか。ウソばっかりじゃないですか。」

「オレ、慶応出身なんだよ。」 

「何言ってるんですか。昨日は早稲田卒だって言ってたじゃないですか。ウソばっかりじゃないですか。いい加減にして下さいよ。」


「じゃあ、オレたち、もうこのユース(ホステル)泊まれないんで、他の宿探しに行くから。」と、日本人でひとりだけ抽選に当たり、ユースホステルに泊まれるオヤジを残して去ろうとした。

「えっ?行っちゃうの?オレも付いていくよ。心配だからさ。」 オヤジは、涙目になってしまった。

「心配?心配じゃなくて、オジさん、淋しいんでしょ?」とメイくん。

「ねえ、住所教えてよ。オレのも教えるから。オレ、結構、危ないところ行くからさあ。もしオレが、行方不明になったら、親に証言してよ。マドリッドで会ったってさあ。」

「オジさん、安全なところしか、行かないじゃないですか。でも、気を付けて下さいね。本当に行方不明になりそうだもんなあ。」


 日本で誰にも相手にされないのに、海外へ行っては、ドミトリーの奥で偉そうに、若いバックパッカーに説教している、そんな厄介なオヤジは、インドとかに多いが、海外でも相手にされない、このオヤジ。ある意味では好感が持てるかもしれない。

 他の日本人に通訳させて、「キスさせてくれ!」と欧米人の旅行者にしつこく迫って、気持ち悪がられる、このオヤジ。

 路上にあるキオスクのような売店で売っているノーカットのエロ本(ヨーロッパなので当然だが)をニヤニヤして立ち読みしていて、店のオバさんに、「しっ、しっ!あっちへ行け!この乞食!」と手で軽く追い払われてしまう、このオヤジ。


「もう日本に帰ろうかな・・・・・。何か旅、飽きちゃった。」とオヤジはつぶやいた。

「オジさん、それがいいですよ。頼むから、早く帰って下さい(笑)」


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